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2025年12月、政府は所得税の非課税枠である年収の壁を従来の160万円から178万円に引き上げることを決定しました。近年の物価上昇や最低賃金の上昇を背景に講じられる対策であり、従業員が年収の壁を意識して働き控える状況の改善を目的としています。
本記事では、年収の壁が178万円へ引き上げられることを受けて、企業にとってのメリットや、今後検討しておきたい対応についてご紹介します。
年収の壁とは、年収が一定額を超えることで税金や社会保険の負担が変わる境目のことです。
年収の壁には、所得税以外にも社会保険の種類によっていくつかに区別されます。以下では年収の壁を区分ごとに解説しています。

| 年収の壁の区分 | 内容 |
|---|---|
| 年収106万円の壁 | ・住民税課税対象 ・社会保険の対象(健康保険・厚生年金保険) ※条件あり |
| 年収130万円の壁 | ・住民税の負担義務が発生 ・社会保険(国民健康保険・ 国民年金)の加入義務が発生 |
| 年収160万円の壁 | ・住民税・所得税の負担義務が発生 ・社会保険(国民健康保険・ 国民年金)の加入義務が発生 ・配偶者特別控除の減少 |
※条件
・週の所定労働時間が20時間以上
・所定内賃金が月額8.8万円以上*
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない
・企業規模(従業員数51人以上)*基本給及び諸手当を指します。ただし、通勤手当・残業代・賞与等は含みません。
パート・アルバイトのみなさまへ~あなたの年金が変わる~大切なお知らせ/厚生労働省
年収の壁178万円への引き上げは2026年度からの施行が予定されています。制度が実現すれば、従業員が所得税の負担を理由に働き方を制限する必要が減り、柔軟な就業が可能になると考えられます。
一方で、社会保険の加入基準自体は変更されないため、企業としては従業員の就業時間や雇用形態を踏まえた対応が必要となります。年収の壁178万円と社会保険の関係性・企業が取るべき行動については以下に続きます。
前述のとおり、年収の壁が178万円へ引き上げられた場合でも、社会保険の加入要件は年収106万円を基準とする現行ルールが適用されるため、企業としては引き続き適切な労務管理が必要です。
また、社会保険料の負担を避ける目的で、従業員が就業時間や収入を調整し、働き控えを継続する可能性も十分に考えられます。
年収の壁が178万円に引き上げられることで、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。いくつかの観点から整理して解説します。
所得税の非課税ラインが年収178万円に引き上げられることで、これまで年収上限を意識して働き控えを行っていた従業員が、就業時間を増やしやすくなることが期待されます。
その結果、繁忙期やラッシュアワーにおける人手不足の解消につながる可能性があります。
既存スタッフの稼働時間が拡大されることで、新たな人材採用に伴う採用コストの削減や、教育コストの削減が期待できます。
また、一定の稼働時間を確保できることから、戦力の安定化にもつながります。
営業時間内での人材の入れ替わりが減ることで、業務品質の一定化や業務引継ぎによる現場の負担軽減が期待できます。
その結果、業務の安定化や生産性の向上につながる可能性があります。
ここからは年収の壁が178万円へ引上げられることで、企業が取るべき行動について解説します。一つずつ見ていきましょう。
年収の壁が178万円に引き上げられることで、パート・アルバイトの就業時間設計や、シフト運用や人員配置といった就業ルールに影響が及ぶ可能性があります。従業員としては、所得税の課税を理由とした時間調整は緩和される可能性もあるため、勤務時間や日数など、従業員が長時間で働くことを妨げる就業規則がないかの確認が必要です。
制度が進むにつれ、従業員から「どこまで働いても大丈夫なのか」「社会保険はどうなるのか」といった質問が増えることが想定されます。
そのため、年収の壁178万円の内容と社会保険の違いを整理した説明資料やマニュアルの準備を進めておくことでスムーズに案内をすることができます。
年収の壁が178万円に引き上げられた場合、従業員による働き控えの緩和や既存スタッフの稼働時間の変更が期待されます。そのため、既存スタッフによる稼働可能な時間を把握し、追加で必要な人員や稼働時間はどれくらいなのかといったような人員計画の見直しが必要となります。
今回のように税制度の改正が行われた場合、給与計算や年末調整の対応が必要になります。
給与計算に関する内容を事前に確認し、制度確定後にスムーズに対応できる体制を整えておきましょう。
最後に、年収の壁が178万円へ引き上げられた場合の採用活動への影響について、求人広告代理店であるトラコムの視点から整理します。
本改正により、求職者や既存従業員において、所得税の課税を理由とした働き控えが緩和される可能性があります。一方で、社会保険の加入要件自体は変更されない見通しであることから、引き続き社会保険の適用外での勤務を希望する求職者・従業員が存在する点にも留意が必要です。
以下では、千葉県に在住している夫婦の年収を例に、従業員の手取りや企業負担に関するシミュレーションをご説明しています。
| 妻の年収 (額面) | 妻の年収 (手取り) | 世帯年収合計 (手取り) | 企業負担 ※3 | 実質人件費 |
|---|---|---|---|---|
| 103万円 | 103万円 | 495.6万円 | 0円 | 時給1,317円 |
| 106万円 | 89.5万円 | 482.1万円 | 約16.3万円 | 時給1,518円 |
| 160万円 | 135.1万円 | 527.7万円 | 約24.6万円 | 時給1,517円 |
| 178万円 ※1 | 145.2万円 | 531.7万円 | 約27.4万円 | 時給1,517円 |
| 178万円 ※2 | 150.1万円 | 540.4万円 | 約27.4万円 | 時給1,517円 |
(※1)2026年改定前
(※2)2026年改定後
(※3)企業負担:社会保険
シミュレーションのとおり、2026年の改定後では、年収178万円においては世帯年収が8.7万円の増加となっています。しかし、注目すべきは「年収106万円の壁」の影響です。所得税が非課税になっても、社会保険料の負担によって年収103万円時よりも世帯年収が下がる「働き損」の状態は解消されません。
企業側にとっても、従業員の年収が106万円を超えると1人あたりの人件費コストが大きく跳ね上がるため、単純な時給設定だけでなく、社会保険負担を含めた「実質的な人件費」に基づいた人員計画が不可欠です。
こうした状況を踏まえ、採用活動においては、自社の採用要件や人材戦略・人件費を整理したうえで、「どのような働き方を前提とした人材を採用したいのか」を明確にすることが重要となります。それにより、求人原稿の設計や採用ペルソナの明確化など、戦略的な採用活動へとつなげることが可能です。
例えば、社会保険の加入要件を満たさない範囲で働きたい求職者に向けては、短時間で効率よく働けることや、扶養内での勤務が可能なことを訴求するようにしましょう。反対に、年収178万円未満で働きたい求職者に向けては、年収○○円可能といったような、社会保険に加入しても稼げるといったメリットを感じてもらうことが重要です。
採用戦略の立て方や、採用ペルソナ設計については、以下の記事よりご確認いただけます。


本記事では、年収の壁178万円への引き上げに伴い、企業が取るべき対応やメリットについて解説しました。制度変更を機に、就業規則や人員体制を見直すことで、より柔軟な人材活用につなげることが可能です。
長時間就業が可能なスタッフの採用や、求人戦略の見直しをご検討の際は、ぜひトラコムにご相談ください。弊社では、最適な採用ターゲットの設定や求人原稿の作成をサポートといったような、企業様ごとの採用課題に寄り添い、最適な採用支援をご提案します。
この記事を書いた人
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採用支援・求人業界歴16年目。Indeedプラチナムパートナー・求人ボックスダブルスターパートナー・Google Partner として、全国6拠点(東京・千葉・名古屋・京都・大阪・福岡)から、35,000社以上の企業様の採用をサポートしてきました。
トラコム編集部が運営しているブログサイト『トラログ』では、求人媒体のご紹介だけでなく
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